750ライダー 石井いさみ
石井いさみ著「750ライダー」です。
ホンダCB750K2に乗る高校生、早川光君とその周辺の人間関係を描いた青春物なのですが、当時、最も人気のあった週刊少年チャンピオンに連載されていました。
当時のチャンピオンといえば、ガキデカ、マカロニほうれん壮、らんぽう、ドカベン、ブラックジャック等、正に社会的人気を誇る漫画のオンパレードでした。
学校で禁止されているバイクで通学して、それを取り上げた時、先生を病院送りにする様にバイクに小細工をしたり、暴走族とのバトル等、比較的血なまぐさいエピソードが多かったのですが、回を重ねる毎に毒々しさが薄れ、普通の青春ドラマへと変貌していきました。
個人的に好きなエピソードが、喫茶店「ピットイン」のマスターが、翌日の弟の結婚式のプレゼントに、自分の印象に 残った文庫本を贈ろうとしたところ、翌日配達できる業者が見つからず(宅急便というものが無い時代です!)、諦めて光君にあげたところ、本にはさまってい た弟宛のメッセージを見てしまった光君が、内緒でナナハンに乗って名古屋まで届けに行ってしまった・・。というのがありました。不便な時代故の、どこか心 温まる話でした。
現在改めて読み返してみると、ナナハンに乗っているだけで警察、周辺から暴走族扱いされたりするシーンが多数登場します。そして、当初光君がヘルメットを被っていなかったことに対して、著者に対して警察から行政指導があったといいます。
そして、当時の子供たちは、この漫画のお陰で、バイクに特別興味が無くても、「ホンダのナナハン」は見分けが付いたものでした。当時、CBは既に旧態化が目立った時代にも拘らず、相変わらずの人気は、この作品の影響も少なからずあったものと思います。
後にバイク漫画として大人気を得た「あいつとララバイ」「バリバリ伝説」辺りが、レースやバトルそのものに、より話 しのウェイトを置いているのに大して、コチラはあくまでもバイクが脇役に徹しているところがあり、あくまでも人間関係がストーリーの本筋としています。それ故に「バイク漫画」と呼ぶには何処か抵抗を感じるの です。
連載開始が75年、それから10年間もの長きに渡って連載されたにも関わらず、バイク関係者以外の間で、比較的影が薄い存在になっている様な気がするのですが、その理由を挙げてみると、
1.70年代終わり頃から、ジャンプに人気を奪われる様になり、チャンピオンが低迷期に入ったこと。
2.時を同じくして、ニューモデルのラッシュに入り、CB750が急速に古臭く見える様になったこと。
こんな感じだと思います。
79年にはホンダより、次世代のCB750Fが発売され、80年代に入ると前代未聞のバイクブームに突入し、各メーカー共ニューモデルを乱発し、信じ難いスピードで年々パフォーマンスが向上していきました。
70年代というと、ナナハンブームで幕を開けたものの、同時に数多くの社会問題が発生や時代で、ダラダラと旧態依然としたモデルが販売されていただけに、皆ニューモデルラッシュを歓迎し、70年代のバイクは誰からも省みられる事無く、静かに解体屋送りとなったのでした。
750ライダーの終了した85年というと、正にレーサーレプリカブームの真っ盛りで、新しい事こそ全てという風に誰 もが信じていた時代でした。CB750といえば、既に一年車検(昔は10年越えた車両は、毎年車検が必要で、それ故に殆どの車両が廃車になりました。)に突入しており、免許制度の影響もあり、タダでも貰い手が付かない位の存在で、そんな中にあっては、さすがに70年代の青 春ドラマ風のストーリーも時代遅れの感が否めませんでした。
やがて多くの人々が、年々高性能になると同時に、実用性が乏しくなるレプリカ達に疑問を抱く様になるのですが、そん な中で急激に人気が出たのが「あいつとララバイ」で、その人気と共に、主人公の乗るカワサキZ2が爆発的なブームを起こし、それまで解体屋に転がっていた バイクに、いきなり80万円ものプレミア価格が付くようになったのでした。
80年代を通して、日本のバイクは途轍もない進化を遂げ、80年代初頭のワークスレーサーよりも遥かに高性能な市販 車が続々登場する事態になった訳ですが、同時にそれを否定する向きがいたのは当然で、レプリカブームと平行して、シングル、アメリカン、旧型車という、そ れまで余り目を向けられることの無かった方向へ、より多様化の時代に入って生きました。
ナナハンライダーも、あと数年連載が続いていれば、再び注目を浴びる機会に恵まれたのかも知れません・・・同時にCB750の価格暴騰も起こったことでしょう・・・。
石井いさみ氏は、同時代、創刊間もないMr.Bike誌上で「風と俺たち」の様な漫画も連載していましたが、同じく登場するバイクはCB750であり、それ以外のバイクは、描いていない様です。
因みに以前、レンタルビデオで実写版を見ましたが、全く箸にも棒にもかからない出来であったことは、言うまでもありません。